たべるの

ひとり畑で

2010年4月14日
高橋 忠和高橋 忠和

今年の春はよく雨が降ります。昨夜からの雨はあがったみたいだけど寒いしね。どうしようかな〜、サボっちゃおうかな。やっぱり行こうか。昼過ぎにノコノコ畑に出かけたら、石井さんはすでに汗をかいていた。
チェーンソウをビューイーン、ビュイーンいわせながら「朝から椨(たぶ)の木を切っていたんだよ。いやぁ、きつい」笑っています。切り倒された椨の木は、新しく造った道を完全に覆ってしまっている。この巨木を切り分けて整理するのにあと2時間はかかるだろうな。

「じゃあ僕は下の畑のソラマメの草取りでもやろうかな」「おう」てなことで、来た道を引き返していく。
途中、碓井さんと田中さんの畑を通りかかり「すいません。鍬を貸してもらえませんか」「いいよ、持っていきな」
田中さんから借りた鍬を背負って、ひとり栗壷橋の畑に歩く。

♪ ひろい東京に ただ一人 泣いているよな 夜が来る
両手でつつむ グラスにも 浮かぶいとしい 面影よ ♪

去年の11月に植えたソラマメは、この時期もっと大きくなっていても良いはずなのだが、寒い春が野菜の成長を遅らせている。今日は風が強いや。山から吹き下ろす風にソラマメがみんな俯いてしまっている。土寄せもしてやらないとな。

♪ 夜の銀座で 飲む酒は なぜか身にしむ 胸にしむ ♪

根元に絡む雑草を抜いていると、「おお、ソラマメの花が咲いているじゃありませんか」可憐な花だよ。
考えてみれば、畑でひとりで作業するのって、初めてじゃないだろうか。
360度見渡しても誰もいない。畑仕事を見よう見まねで6ヶ月、下手な腰つきで鍬を使う自分がひとり。
歌なんか唄ってしまう。みなさま、お待たせしました。「ひとり酒場で」森進一さんです。

♪ 嘘で終わった 恋なんか 捨てて忘れて しまいたい 
男の意地も おもいでも 流せ無情の ネオン川 ♪

たかだか1本10メートル、4本の畝の土寄せに息が上がる。石井さんや山本さんならザッザッザッといくところをズズッズズッズズッだもんなぁ。しかも一発で土がソラマメの根元に寄らないもんだから、手で土寄せしてる。

♪ 暗い東京の 酒場でも 夢があるから 酔いにくる
今夜はとても 淋しいと そっとあの娘が 言っていた ♪

プハーッ。堪えきれずにへたり込む。腹の中から汚れた吐息がボワッと出てきて、それを桜散らしの風が吹き飛ばしていったとさ。

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