伝統野菜が、やってきた。
夏野菜の作付けは忙しい。作りたい野菜があれこれ沢山あるから仕方ないのだが、そこにカボチャが急きょ加わった。
「貴重な種あつかっているところでね」畑仲間のKさんが仕入れてきた鹿ケ谷カボチャである。「わぁ面白い形してる」「見たことないね」「京野菜だって」もの珍しさに会話がはずむ。同時に、この畑でカボチャを作ったことがないことに気づく。しかも伝統野菜、この土地に合うのか、難しそう。さて、どうしたものか。
種袋に書かれた説明書きに加え、ネットの情報を重ね合わせながらも、面倒なことはできるだけ避けたいという性分が勝り、結局、保温と水分担保のマルチを施しつつ、1時間ほど水につけた種を直播きした。だってですよ、「昔は湿らせた種を三日間腹に巻きつけて催芽した」とか言われても…ねぇ。腹に巻かなくても、私たちにはマルチがあるじゃないか。
内心どきどき、発芽したときには密かに小躍り。夏の盛りにむけてどんどん弦は伸びてゆき、セオリーどおり親づるを摘心。勢いのある開花を確認、蜂さん受粉よろしくの願いが届き、ある日、生い茂った葉と弦の中に、ユニークなかたちの小さな実を発見した。やったぁ。
緑の実はあっという間に、黄色く。土に接した部分に卵パックをかませて底上げ、丁寧に上下を逆にして陽を全体にまわす。葉山の畑のころ、数回だけカボチャの世話をした経験を思い出していた。だが、鹿ケ谷カボチャである。はじめて見る種なのだから、サイズ感も色合いも採り頃がわからない。いやいや、長年の週末ファーマーは伊達じゃない。私たちは知っている、弦系作物の採り頃サインは茎の色だってこと。
試行錯誤、自問自答の季節をこえ、7月末、最初のひとつを収穫した。代表して私が持ちかえった。すぐには食べない。菜園いちばんの贅沢は採れたてを食することだけれど、カボチャは例外。しばらく放置して追熟をはかるのだ。
約一か月、鹿ケ谷カボチャは我が家のオブジェとなった。なかなかの趣である。だが、眺めているだけとはいかない。味を確かめたい。
まずは京野菜らしく、薄味で「炊いたん」に。先入観とはこわいもので、カボチャといえばホクホクの食感を勝手にイメージしていたから、一口食べて、ん? 皮までやわらかく、あっさりしている。そうだった、日本カボチャは、ホクホクではない。かといって鹿ケ谷カボチャはねっとりでもない。瓜にも似た歯切れである。
これは焼くといいかもしれない。包丁もいれやすいので、薄くスライスしてグリルしてみる。知っているカボチャとは違うカボチャの味。伝統野菜と知らずに食べたら、むしろ日本ではない国の、しかも新しい品種のカボチャと思ったかもしれない。
畑は、毎年、面白い。
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