たべるの

いつもそばにいる。

2015年6月5日
高橋 忠和高橋 忠和

5月の最後の日曜日、畑に行ってショックを受けた。
ソラマメが、絹さやが、スナップエンドウが全滅している。

絹さやとスナップエンドウは少し前から具合は悪くなっていた。
5月半ばの台風は、横浜の畑に近づく頃は温帯低気圧に変わっていたが、これが大雨をもたらしたのだ。
そのあと、絹さやの葉が薄黄色から白くなって、立ち枯れし始めた。
お隣の畑のスナップエンドウも同じような状態だった。収穫できる分だけ収穫して、早々と撤収するそうだ。
私たちの畑は諦められない。去年の大豊作を思えば、まだまだ採れるはず。
どうするか。もちろん大雨が原因かもしれないが、それ以外にも理由はあるかもしれない。
排水のために畝に沿って溝を深く掘った。
チッ素成分を抑えたリン酸とカリの追肥を施した。
害虫の可能性もあると考え、農薬も使った。

一週間後、結局回復はしなかった。畝の約半分はダメで、かろうじてもう半分が新しい実をつけている。
ソラマメはよく見れば一部葉の緑が薄くなっているものの、鞘は空に向かって立ち上がり
1回は収穫が出来た。「でも来週だね。本格的な収穫は」そう言っていた。

そして、全滅だった。

スナップエンドウの畝は全部立ち枯れしていて、実をつけていない。
ソラマメは、全ての葉っぱという葉っぱが喰い尽くされて、みごとなぐらい丸裸。
鞘は黒くなっている。手にとると貧しく乾いた豆がカラカラ鳴る。
かろうじて緑色の鞘を見つけてもグチュグチュだ。
たった一週間でこの崩れ方は信じられなかった。
豆の畝を離れて、見渡して見る。
春野菜はみな薹が立って、もう野菜ではない。花だ。
畑に終わった感が漂っていた。
めげた。

まあ、そういうこともあるんじゃない。春野菜と豆が終わっても、もうすぐ夏野菜じゃない。
そういう考え方もある。
でも正直に言うと、そんな暢気でお気軽な考え方にはなれなかった。

ここ何年も畑の作物はほとんど成功させてきたし、豊作が続いていた。
かつてはうまくいかなかったキャベツが今シーズンは初めての大豊作だったし、我々にとって手強いホウレン草やニンジンもうまくいく目処が立っていた。
なぜ今年のソラマメや絹さや、スナップエンドウがダメだったのだろう。

過去の栽培日誌を取り出して読んでみた。
読んでいてハッと気がついたことがある。日誌の内容ではなくて、日誌の回数だ。
横浜の畑に来て、2013年は、春3月から4月、5月の3ヶ月で、計16回の日誌が書かれている。
つまり3ヶ月で16回畑に通ったということだ。
それが昨年2014年は14回。そして今年は11回。

畑に飽きたわけではなく、ズルしたくなったわけでもない。
週末に雨が多く降れば、畑に行く回数も減るだろう。
それにしても、だ。

いつのまにか「いかに効率よく、綺麗で、美味しくて、大量の野菜を作るか」に気を奪われていたのではないか。
割高でも品質の良い種や苗を求め、ちょっと高級な肥料を使い、最新の農薬の効き目に期待する。
以前なら、たとえウィークデイでも、心配で様子を見に行ったところを、安心してしまっていた。
もちろん、私たちはプロの農家ではないから、畑に費やすことに出来る時間には自ずと限度はある。
それでも、畑に向かう気持ちと言うか、温度と言うか、落ちていたのではないか。

今年のソラマメ、絹さや、スナップエンドウの失敗の原因は、未だよく分からない。
しかし、あらためて心に誓ったことがある。
これからは「いつもそばにいる」
できるだけ畑の傍にいるようにしよう。

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