たべるの

畑の主

2017年4月4日
高橋 忠和高橋 忠和

池や川の主なんて言い方がありますね、その土地に棲むものたちの主。あの姫リンゴの木は、そんな主であったのかもしれません。畑の主。私たちは今日、その巨きな根っこを掘り出し、文字通り根刮ぎにしてしまいました。

姫リンゴの木は、他の果樹やツゲ、ツツジなどの庭木とともに、この畑が休耕していた時期に根を張り、枝葉を茂らせて、大きくなっていたのです。
私たちは自分で管理できる面積だけ、それらの果樹を倒し、庭木を掘り返し、畑としてきました。

作物の種類が増え、畑を広げる必要が出てくると、葉山の友人にお願いしてユンボで開墾してもらいましたが、畑の中央の、あの姫リンゴの木は、ずいぶん大きな木でしたから、手をつけられなかったのです。
そんな状態で畑を続けましたが、大きな木が畑に落とす影が問題でした。

3年目の冬、地主さんにお願いして、姫リンゴの木を切り倒してもらいました。
「ああ、これで畑の隅々まで日の光が当たるようになった」喜びましたが、大きな木の根は残っていたのです。。

それは想像よりはるかに広く張り巡らされていて、根元から随分離れたところでも、振り下りした鍬がとコツンと跳ね返されました。耕運機の歯も寄せ付けません。畑は姫リンゴの木の根を遠巻きに囲むように耕されました。まるで今もそこに姫リンゴの木があるかのように。
「人の力じゃ、ちょっと無理だな。」大きな根っこはそのままになりました。

横浜の畑で5年目の今年、畑に新しいメンバーが加わることになりました。その新メンバーのために、畑を広げなくてはいけません。あの姫リンゴの根っこにもう一度向かい合うことになりました。
葉山から再び友人に来てもらい、今度こそユンボで根こそぎにすることになったのです。

ユンボのアームの先端、バケットというのですが、これで姫リンゴの根っこを揺さぶってみます。ビクともしない。逆にユンボの機体が傾いてしまう。「これは深いなぁ」根っこの周りの土を掘ることになりました。
途中何度か強引に引きはがしにかかりましたが根っこは動かず、掘って、掘って、結局姫リンゴの根っこを中心として、直径5m深さ1.5mの大穴が畑の真ん中に開いてしまいました。

それでもまだ根っこを引き抜けない。穴の中に入って、一番太く、真っ直ぐ下に伸びている根をチェーンソーで切って、ようやく引きはがすことができました。
地中深く潜り込んだ根っこの先端はそのままです。

やはりあの姫リンゴの木は、この畑の主だったのかもしれません。
細かく砕けた根の残骸が畑の土の中にたくさん潜んでいます。一つ一つ手で掘り起こし、綺麗に片付けていくのにしばらく時間がかかりそうですが、コツコツ作業すれば、やがて新しい畑として生まれ変わるでしょう。

今年の夏野菜は、新しいこの畑で育てようと考えています。

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