たべるの

【地力】ちりょく じりき

2014年9月30日
高橋 忠和高橋 忠和

「良い野菜を作るには、良い土を作ることだよ」畑を始めた頃にそう教えられました。
良い土というのが、未だに確信がないのですが、それでも畑を5年やって来て、土壌の性質のことや、気候風土との関係、たとえば堆肥にも質の良いものとそうでないものがあること、有機肥料と化成肥料のこと、苦土石灰の働きや農薬のことなど、いくつも試して、少しずつ身体で覚えてきました。
ひとつ覚えるとお尻が泥で汚れて、膝が土に汚れました。流れる汗が黒くなり、肘が汚れ、お腹にまで土がついている。気がつけば、土にまみれていました。

地力(ちりょく)という言葉があります。
その土地が作物を育てることのできる力。土壌の、作物の収穫を生み出す力を言うのだそうです。
良い土とは、地力のある土のことなのですね。
土にまみれてトライしたのは、地力を上げるためだった。
大きく地力が上がったこともあったし、それほど効果を感じないこともありました。
ひとつの野菜にはうまくいったけれど、その後がすっかりダメということもある。
土は難しいです。
必ずうまく行くという方法を、私はまだ知りません。

ところが逆に、土の力が私自身に効いているという実感があるのです。
あるとき、手袋を外して直接手で土を触ると、「ああ」と声に出そうなぐらい懐かしい感情がこみ上げてくることがありました。
畑で草むしりしている時に、ふつふつと愉快な気持ちがこみ上げてくることもある。
土から何かを受け取っている。何かを貰っている。
気分が塞いでいる時も1日畑で作業すると、すっかり気分が良くなっていることもあります。

作物はみな、太陽の光を受けて育ちます。うまく育つためには適切な温度も大切な要素ですし、ときには虫や風の力も借りますが、なんと言っても、土から受け取る水分や栄養が、作物を発芽させ、葉を拡げ、花を咲かせて、実らせる原動力です。地力ですね。
どうやら私も、その地力の恩恵を受けているのかもしれない。
もっとも靴を脱いで裸足で畑の土の上を歩いたことはありません。だから私には十分な花や実がつかないのかもしれませんがね(笑)

畝を起こすにしても、種を蒔くにしても、畑にいて足下の土を見つめる時間は長いです。
普段の暮らしでは土を見ることなんてあまりありませんね。ましてや土を触ることはない。
どちらかと言うと、夢とか希望とか、上へ上へと見上げてばかりだからかもしれません。

しかし、畑で土にまみれて分かったことがあります。
どんな作物も自分の身体のはるか上空に花を咲かせることはなく、宙に実をつけることもない。
自分の身体に花をつけ、実がなるのです。
夢や希望も、自分の遥か上の方にあるのではなく、きっと自分の身体の中にある。
夢や希望の種を自分の中に見つけて、それを大切に育てるのだ。

地力と書いてもう一つ読みがあります。地力(じりき)。

土は難しいです。でも土は優しいと思う。

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