たべるの

田植えの季節。

2012年6月14日
高橋 忠和高橋 忠和

私が子供の頃、田植えは6月の風物詩でした。
「田んぼにはたくさんの水が必要だし」
梅雨の中での田植えは、しごくあたり前の風景だったように思います。

ところが最近では、田植えは5月の連休中が普通になってきたようです。
場所によってはさらに早く、4月の末に田植えを済ましてしまうところもある。
だから「葉山では田植えは6月です」と言うと、「へぇ〜、ずいぶん遅いんだね」と言われます。
いえいえ、葉山はむしろ昔のまんま。その他の日本全体の田植えの時期がどんどん早まってきたのですよ。

でも、どうしてこんな風に田植えの季節が繰り上がってきたんだろう。

いろいろ調べてみると、9月の台風を避けるためというのが最大の理由のようです。
夏を乗り切り、ようやく迎えた稲の開花時期と二百十日頃(九月初旬)の台風が重なり、 受粉障害を受けて、凶作となることが昔は度々であった。
まずはここから逃れたかったのですね。米作農家の悲願でした。
さらに、台風が上陸すればせっかく実った稲がみななぎ倒される。
だから台風上陸が増える九月以前に稲刈りを済ませたい。

田植えにしたって、今やどんどん就農人口が減っているんだから、
5月の連休中なら人手も集まりやすいのじゃないの。とかね。

とは言え、単純に稲作のスケジュール全体を繰り上げれば良い、
田植えを5月のアタマにすれば良いということではなかったのです。
まず、稲の種蒔き(籾蒔き)から発芽には平均約30℃の温度が必要だし、
田植えをした苗の成長のためにも、田んぼの最低水温15℃は絶対条件でした。

たくさんの知恵と工夫が集まって、次第に次第に、
日本の米作りは自然の制約を乗越えていきました。
さらに人間の都合や市場原理に合わせて田植えの時期は早められてきました。

今や多くの農家では育苗器などの加温機械を利用し、
稲の品種改良や化学肥料や農薬の助けを借りて、
5月の連休中やそれより早い時期の苗の初期成育を可能にしています。
よく整備された灌漑設備は、もはや梅雨時の雨水に頼っていません。
すごいですね。
人間の知恵と力が自然を克服してきたわけです。

しかし、自然に還っていこうとするわたし達の農業、
葉山の田んぼでは、田植えはやはり6月です。
梅雨の雨の中、機械を使わない手植えの田植えが、やはり良いなぁと思います。
効率を求めて自然と対立するよりも、自然の中で暮らしていきたい。

自然の摂理に従った無理のない稲の育成は、農薬などほとんど使わなくて済みますし、 出来てくるお米の品質も良くなる。

たとえ夏の暑さや水不足、9月の台風にオロオロすることになっても、
その先の10月に、稲刈りをして収穫すれば、
お米だけではなく、その1年で自然が教えてくれたことをすべてを手に入れるという、 大きな喜びを得ることができると信じています。

今度の日曜日、6月17日の天気予報は曇りときどき雨。わたし達は、田植えをします。

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