たべるの

ダイコン試合

2015年1月9日
高橋 忠和高橋 忠和

みなさん、あけましておめでとうございます。
新年最初の畑の記事は、お正月ですし、たまには笑って読んでいただこうと
拙い小咄を書いてみました。
ダイコン試合

隣村の畑のダイコンがえらく美味しいと評判になった。
美味しい隣村のダイコンばかりが飛ぶように売れて、こちらの村のダイコンは売れ残る。
川を挟んだ同じ土地に同じ水、肥料だって大して違わないんだから
隣村とうちの村のダイコンが、そんなに美味い不味いの差が出るわけはない。
何かカラクリがあるはずだと確かめに行くことになりました。

八五郎「おい熊さん、うちの村のダイコン持ってきてくれたかい」
熊「おうよ。色は真っ白、肌はすべすべ、でっぷり太った上玉ダイコン持って来たぜ」
八五郎「うちの村のダイコンが隣村に負けるわけはないんだ。これから乗り込んで勝負しようぜ」
熊「隣村とうちの村、ダイコンの味比べだ」

八五郎と熊、ふたりとも肩怒らせ、眉つり上げて、ダイコン抱えて歩いて行きます。
こちら村と隣村を分けて流れる中川に、かかる丸木橋。橋のたもとにさしかかると、
ちょうどむこうから隣村の与太郎が橋を渡りかけてきました。
丸木橋というのは1本の大きな木を切り倒して川に架けただけの橋ですから、
手すりもありませんし、ひとりがようやく通って渡れる幅しかありません。

与太郎「おっと、ごめんよごめんよ。ダイコンの注文がひっきりなしで、これから街まで届けるところさ。急いでいるんでお先にごめんよ」
背にダイコンをいっぱい背負った与太郎はズイズイと橋を渡り始めます。

八五郎「おやおや隣村の与太郎じゃねえか。急ぎの用だ、お先にどうぞと言いたいところだが、 そうもいかない差し迫り。こちらのダイコンも切羽詰まっているんだ、そっちが控えてくれ」
八五郎と熊も丸木橋を渡ろうとします。

八五郎とダイコンを背負った熊がこちら側から。あちら側からは与太郎。やはりダイコンを背負っておりますが、両者譲らず、丸木橋の上で睨み合いとなりました。

与太郎「売れもしないダイコンに、どんな急ぎの用がある」
熊「な、なにお!」
八五郎「どうせ汚いカラクリで、街の衆をだまくらかしの怪しいダイコン。このまま通して、街まで届けさせるわけにはいかないのさ」
与太郎「これは酷い言いがかり。こちらのダイコンは世間様の認める美味しさだ。街のみんなが待っている。どうでも通してもらうよ」

橋の上で通せ通さぬの押し問答。

そこへ現れたのが隣村の長老権じいさま。
権じい「これこれ与太郎。つまらぬ喧嘩で大事なダイコン傷めては元も子もない。八五郎と熊に、こちらのダイコンの美味さを、思い知らせてやれば良い」
与太郎「権じいさまが言うならしょうがない。我らがダイコンの美味しさを思い知らせてくれようぞ」

与太郎は自分の背中のダイコンを一本引き抜いて、八五郎と熊に突き出します。
白く、艶っぽくって、ぼってり太い。
八五郎「それじゃあこっちだってうちのダイコンの美味しさを示さずにはいられない。熊!」
熊「おう!」
熊も自分のダイコンを引き抜いて八五郎に手渡すと、八五郎はそれを与太郎に向かって突き出した。
こちらも白くスベスベで、ずっしり重いダイコンです。

あちらの村のダイコンとこちらの村のダイコンが、たがいの肌をすれ違い、こちらはあちらへ、あちらはこちらへ、両者それぞれの面前に迫ります。

目を見開いてじっくり観察。鼻を寄せて匂いを嗅ぐ、指を走らせ舌を走らせ感触を確かめる。
八五郎が隣村のダイコンをペロリと舐めると「あは〜ん」
指で突くと「うふ〜ん」
なんだこれは!

こちら村の差し出したダイコンの尻尾の方を齧った与太郎は、ペッと吐き出して
「どうだい。うちのダイコンは。そこらのダイコンとはモノが違うんだよ」

「は〜ん」「ふ〜ん」八五郎が撫でたり舐めたりするたびに、怪しい声が聞こえてきます。
「どうなってんだこのダイコンは」
振り返って熊にダイコンを手渡すと「ああ〜ん」
驚いた熊は手足をばたつかせ、体勢を崩して八五郎にすがりつく。
八五郎も足を滑らし与太郎にぶつかる。

「あは〜ん」「おほ〜ん」
丸太橋の上でくんずほぐれつ。結局三人は、手にしたダイコンも背負ったダイコンも、もろともに、川へ落ちてしまいました。

権じい「与太郎!大事なダイコン失うな」

プカリ流れるダイコンを川から掬い上げますが、どれがこちら村のダイコンか、どれがあちら村のダイコンか。かまわず掴んで次々と、八五郎も熊もそれぞれに、目の前を流れるダイコンを、手当り次第に捕まえて行きます。

熊「おお、これはまた見事なダイコン」

川の流れの真ん中あたりで掴み上げると「あん」
ググっと引き寄せると「ああ〜ん」

熊「ありゃありゃ、隣村のおよねじゃないか」
八五郎「こっちはおはなじゃないか」
およね、おはな「うふ〜ん」

与太郎「いつまで触ってんだよ。手を離せ」

川から上がった八五郎と熊と与太郎。それにおよねとおはな、権じいさん。

街の野菜問屋の手代の分七ってえのがいい加減な野郎なんだが、こいつをからかってやろうってんで
分七が村に来て、ダイコンを触るたびに、裏に隠れたおよねとおはなが声を出したんだよ。
「あは〜ん」てね。
そうすると、こっちがたまげるくらい分七の奴信じ込んでしまって、色っぽいダイコンだ。
評判は瞬く間に広がって、街の何人かにそれなりの鼻薬を掴ませたもんだから
「ダイコンを切ったときに聞こえた」「煮てる鍋の中からも聞こえる」
ダイコンはどんどん売れるってえ寸法さ。

以降、こちら村と隣村が協力してダイコンばかりではなく、蕪なども売りまくったものですから両方の村は何年ぶりかの大儲け。
二つの村が合同で打ち上げのパーティーを開きます。
普段は表立った交流のない二つの村の人々は宴会に大盛り上がり。

八五郎と熊は、およねとおはなにしこたま酒を飲ませて迫りますが、なかなか落ちない。
「なんだおまえ達、ちっとも崩れないね」
「当たり前よ。私達、青首じゃなくて三浦だもん」

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