オロオロするどころか。
台風一過の畑を訪ねてから、気づけば一ヶ月。予言したとおり短い秋はすぐに終わり、その日の畑は、思わずウァ〜と歓声をあげたほど、美しく鮮やかな眺めに変わっていた。ブロッコリーも、白菜も、小松菜も。澄んだ空気の中、土からのびた姿が力強く、たくましい。冬の訪れだ。
「今日は、大根、オロ抜くよ」石井さんの声に、こころが弾む。オロ抜くとは、間引くこと。数粒蒔いた種から発芽し成長した大根を、ある程度のところで間引き、立派に育つよう1本立てにするのだ。勿論この1本が大きく育つのは楽しみだが、冬の始まりの一瞬にしか味わえぬ、しかも畑に来ているからこそ頂ける、オロ抜き葉に、こころ弾まぬわけがない。だって、すんごく柔らかくて美味しいんだもん。
こころの弾みをバネに抱えきれぬほど沢山のオロ抜きを持ち帰った。普通の大根葉でもよく作るジャコ炒めをまず! 香りと柔らかさがたまらない。白いご飯にぴったり。そうだ白いご飯にそのまま混ぜ込んでもいいな、と思いつき、加熱せず塩でもんだだけの葉を、炊きたてご飯にまぜてみる。オロ抜き菜めしの出来上がり。おにぎりにしてもいいぞ。ご飯があるなら、味噌汁も。葉の先についた白く可愛い大根も具材にして。風味豊かな赤だし、おかわり!
こうなるとメイン料理にも使ってみたくなる。豚肉と椎茸と一緒に、オイスターソース炒めに。旨味のしっかりある食材と、大根葉独特の青い香りが互角に渡り合った、いい一皿ができあがったではないか。おっ、この葉ならクリーム煮にしてもいけそうだ……閃いたのはいいが、ああ、もうオロ抜きが、なーい。オロオロこまるどころか、足らないくらいの美味しさでした。今日も畑に、ごちそうさま。
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